「なんで保育士の給料は低いのか」に答えてみる

 ホリエモンが「なんで保育士の給料は低いのか」に対して「誰でもできる仕事だからです」とツイートして話題を作った件。元保育養成系の教員としては、放置するには聞きづてならないやりとりを目にしたので、書いてみようと思います。

 彼の「誰でもできる仕事だからです」という答えは、事実として誤認です。大学や短大、専門学校で膨大なカリキュラムを修めて、実習には2週間ずつ3回以上行き、資格とるのは相当に大変な部類のお仕事です。コンビニ店員も大変なお仕事ですけども、少なくとも資格を取るに至るまでのプロセス的として違いすぎます。それから、家で1人や2人の自分の子どもを育てるのと、保育士のように多数の子どもに目配りしながら、他人の子を安全に継続的に質を確保しながら預かり、マネジメントをする労働の中身は全く違います。「子ども育てたことある」とか言う人、そこは一緒にしないで。保育資格を取らずに卒業して会社に就職して勤める方がラクして儲かるかもしれない。給料優先と考えだすと資格取るのもバカらしくなって途中でやめる学生も確かにいます。これだけ資格を持っている人がいても保育士不足が続いている事情はそんなところでしょう。

 ではなぜそんなに大変な思いをして資格を取ってまで保育士になろうとする人がいるのか?「人間とかかわるやりがいのある仕事だから」だと思います。ありがたくも参入する人がいてくれるのです。「ほどほどにお金もらってやりがいのある仕事をできる」ということになります。そういう職はほかにもいろいろあります。芸能系のお仕事、メディア/アニメ界隈、アーティスト、ミュージシャン、ダンサー、作家、そして私のような研究者とかもそんな部類に入ります。Jリーガーだってそんなもんかも。スポーツやってる人にもお金もらえない人は大勢いますよね。
 じつは保育士志望の学生は、そういう一芸に秀でている人もたくさんいます。食えなくてもいい仕事の保険として保育士資格取得をめざしたり。そんな芸のある素敵な先生に教えてもらえる子どもは幸せだと、私は思います。「合理的な愚か者」(アルマティア・セン)と言ってもいい。そこにつけ込んで安く使い倒す経営者もたくさんいます。「逃げ恥」でいうところの、やりがいの搾取、ですね。理解のない保護者もいる。世間の理解は足りない、大変ではあるけども大事にされる職の1つではないでしょうか。まあ、ホリエモンさんは、そんな仕事に手を出すこともないでしょうが。

 より実際的な話をするなら、政府の決めた単価にしばられるので給料はなかなか上がりません。税金を使うので合意のとれた範囲でしか賃金が支払われない。でも、イギリスのカリスマベビーシッターとなると、驚くほど高い賃金で雇われることもあるといいます。保育も市場化した世界ではたまにそういう現象も起きていますけれど、構造上CEOたちの年収を超えるような事には、たぶんならないでしょう。福祉のお仕事は市場で交換価値を生む儲かる仕事になるのは本質的に難しいから。ソフトウェアや広告に課金する仕組みを売ったり、工場で量産したモノを売っったり、投資で一瞬で大金を手にしたり、環境を汚染しつつあがりをかすめ取ったりする職業とは違います。そういうところばかりで大金が動く世界の仕組みが、私はおかしいと思います。

 人手のかかる仕事はラクして儲けることはできません。農林水産業とか教育とかもいまのところそうなっています。誰かが儲かる時には、環境や子どもなど何かが犠牲になっているはずです。もっといえばほとんどの家事はいまでも無償で行われています。こういう仕事を全部なくそうとするとしたら、それは「人間」であることをやめる時かもしれない。IT化のその果てのAIを考えているヒトは子育てもロボットで、と言うでしょうけれど、それは私たちが考える「人間」の終わりとともにやってくるはずです。

 ところで、ホリエモンはなぜわざわざこの保育士の賃金問題にツイートしたのか。その謎解きの方が私の興味を惹きました。彼は金や地位や権力になびかない人々を嫌ってきました。なのに実は気になりつつある?幸せそうにみえるから。ほっとけばいいのについ書いてしまう心理とは。自分は仕事優先だった親に温かく育てられた経験がないことを誇りにしているホリエモン。子育てなんて、保育なんてどうだって、オレみたいに立派になれるんだよ、と言いたいのでしょうか。親たちに「立派に育ててやった」と言われるのが嫌なんでしょう。でも、幼い頃あなたの周りに親や祖父母やいろんな人がいて「金にならない子育て」をしてくれたから、いま偶然にも金を儲けるあなたがいる。その金を、親じゃなくてもいいから誰かに回してくださいよ。そうやって人類が続いてきたんですから。

 親への私怨を公共のツイートで流して保育を志す若者を貶めるのは、悪趣味です。