感情の嵐が渦巻いている

 (推敲した版)やっとJリーグが再開した。日常が戻ってくるようで少し気が晴れる。ベガルタ仙台が逆転勝ち。監督が泣いていた。それでも、なにかこう、人々の感情の行きどころがサッカーで勝ったり負けたり、というまっとうなところに戻ってくるのはいいな、と思う。
東日本大震災以来、社会の隅々にまで感情がほとばしっている。寡黙な東北の人々にあっても、感情が押さえきれない出来事であるのは当然ながらも、世間は被災していない大多数の人、私も含めてあまねく刺激される仕掛けだらけ。街のスーパーにいけば目にする募金箱、テレビの広告、番組ではすべての出演者が善人となり、有名人たちは巨額の寄付を宣言する。いつのまに私たちはこんなに寄付をする国民になったのだろう。
 その一方で、避難者が東京電力の社員たちに罵声をあびせて土下座と謝罪を要求
する様子をメディアは傍観者として映し続ける。いつのまにか東京電力の社員の家族、子どもまでもがいじめの対象となってしまった。そして福島からくる作物や家畜、ついには人間までもが放射能汚染源のような扱いをされている。スーパーマーケットには東北近辺の食材は入らないのに、直販や物産展では人気であると報道がされる。激しい善意と裏側での陰湿な差別。私たちはジキルとハイドなのか。
震災孤児の里親になりたい、という人も多いと聞く。ネット掲示板にも寄せられているその質問に、阪神大震災で自分も親を失ったという人がよせたコメントがずっと心にひっかかっている。「直後にはとても親切にしてもらえるが、その気持ちは続かない」という内容だったと記憶している。その人は、当初の盛り上がり後の人々の忘却に傷ついたという。
ここ10年というもの、虐待児が増えて施設が満員でも、里親になりたいと希望する人は不足してきた。一人親の貧困率が先進国でぶっちぎりNO.1だと明らかになっても、親を失った子どもを支える「あしながおじさん」募金額はむしろ減り気味だった。(親を失った理由で差別しないこの団体には、ささやかな寄付をしたいと思う。)津波で家をながされた「ホームレス」には優しいのに、ふだん通勤する道に寝ているホームレスは無視されつづけている。
地震被害のためによせられた募金が原発事故の避難者にさりげなく配分された。それは目的が違うはずだ。電力会社がまず賠償責任を負うものだろう。使い道を見定めないうちに寄付をしなくて、心底よかった。原発避難者には別に支払われるものがあるのだから、あとで無用な怨嗟を招かないためにも、義援金をまわしてはいけなかった。
そう、私たちは大災害などのイベントにとても涙腺が弱いのである。これも結局のところみんないっしょに、の「ノリ」なのだ。しかも、とにかく平等に配分したがる。決定の批判と責任逃れのためにその場の一律平等が残したもやもや感が、どこかで吹き出す怨嗟となる。怒って、人のせいにして、そのうち忘れて終わり。でも、誰にその怒りをぶつければいいのか、本当はよくわからないのだ。どこに向かって戦い続ければこの無限ループから出られるのだろう。
学生運動が敗れ去ったあと、見事に非政治的な時代に学生だったので、ふと官庁に入ってみたら原発政策に反対できるのではと公務員試験を受けていた。もしそのまま公務員になっていたら資源工学出身の私はいまごろ「保安院」所属だったかもしれない。結局入る前にアウトする道を選んだが、入庁して原発に反対を貫きながら生きていけたとは想像できない。
正しい答え(=原発は必要なもの)は最初から決まっているのが官庁だ。しかも、なぜそう決まっているのかはよくわからないのである。答えに合わせて精緻な回答をつくる。入試と一緒の思考回路である。官僚に感情的に怒ったところで無駄である。まともな感覚を備えている人は入庁しないし、まず出世していない。彼らに重要な意思決定や判断を頼らなくてすむ仕組みをつくるしかないのだ。まずは、私たち一人一人が一時の感情から距離をおけるようにならなくては、足下がすくわれてしまう。そして、たとえ厳しい状態におかれようと責任を誰かに押し付けずに引き受けて生きること。ループが少し揺らぐことを祈りながら。

3.11後のメディアを振り返って

あの日からもうすぐ1ヶ月。これほど心に疲れが溜まる日々は経験がない。何事も平常にすぎていく西日本にいながら、なんでだろう。当事者でないからこそ、出来事はメディアの中にしかない。これがひどく精神を疲れさせている。
ここ1ヶ月私がしようとしたのは、あらゆる方面から断片的に入る情報を急いで集めて、できるだけ科学的な根拠で積み上げられた現実を自ら再構成してみることだった。(普段学問してるのと同じだけどペースが100倍速くらいの早回し)そのために、多方面の情報にアクセスすることになった。Twitterもついに始めたし。でも、本来安心して情報の分析を託せる専門家がいたら、自分でそこまでする必要もないのである。なかなかそういう分析に出会えない。それで自分でやることになる、結果として疲弊したというわけだ。
振り返ってみれば分析対象が震災と原発になっただけで、言説の布置はいつものかたちが再現されていた。大新聞やテレビは大本営発表に徹し、週刊誌はその御用メディアをたたく。同じ系列の会社どうしで裏と表、あるいは本音と建前をつかいわける。インターネットはどちらかといえば裏に強いけれど、流れるニュースは表が中心で、Twitterでコメントつきで増幅される。文部省を中心に流される膨大な放射線測定値などの一次情報もある。
結局、断片的に積み上げられた事実とデータはかなり出回っていても、しっかりと考察された論評が見当たらないのである。フランスでは、なぜかジャックアタリが原発事故について語っていたりするのに。いきおい海外メディアのコラムやテレビなどを直接見ることになる。ただ、彼らには日々日本語で出回る事実とデータがすべては届いていない。情報量不足なので今ひとつ真実に迫っていないということになる。国内の有識者たちの骨のある分析がもっとタイムリーに聞きたい。残念ながら古くからある原発資料情報室や環境系NGOはこの好機をそれほど十分に生かしていたようには思えない。
人々の行動は、メディアの布置にそのまま対応していて「がんばろう日本」への協力を惜しまずに節電に協力し落ち着いているようで、政府の発表はほとんど信じることなく放射性物質の被害をさけようと、東北近辺の食材には手を出さない。つまり二重なわけで。ちょっと悲しくなるほど日本人の反応の様子を描いているコラムもある(http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/fl20110405ad.html)。
 徹頭徹尾、専門家の議論はすれちがっていき、深まらず噛み合ない。だから思考の置き所がない。自分で最初の一歩から組み立てて行く以外には。
 そして、ついに官僚はネットのプロバイダーにデマや噂と判断した情報を削除するよう要請したたらしいhttp://matome.naver.jp/odai/2130183431868236701。正しいのは誰だというのか。私は水産庁の「デマ」に抗議したけれど未だ変更なし。昨日は外務省が海外メディアにも、申し入れをしたようだし、言論統制はさらに強まるだろう。少しペースダウンしながら、気長に追っていくしかないのだろう。

海の放射性物質を注視しなくては

  陸の放射性物質はだいぶ公開されるデータも整ってきました。IAEAの勧告も出たりしていますし、議論にさらされるようになっています。ところが海のほうは相変わらず手薄なままです。東京電力が放水口付近で測っている値が日に日に高くなっている報道はありますが、文部省が24日から発表しているデータは不十分で、ほとんどメディアでもろくにとりあげられない。(http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1304148.htm)。不明な点を文部科学省に電話で聞いたら、結構簡単につながり丁寧に対応してくれました。調査は委託しているのでお任せになってしまっているようですね。でも、委託先は(独)日本原子力研究開発機構、原子力村のお仲間じゃないですか。だからかなあ、プレス発表資料がなにか変。一部のデータがすぐ公開されていなかったですし、グラフも高い値のところだけ線を引いていない!さっきようやく公開され、ニュースにも小さく流れました。福島第一原発の南に50km離れたポイントで、ヨウ素79.4bq/L。セシウムが7.24bq/L。十分に高い数値です。そもそも30km以遠10カ所モニタリングではすくなすぎますが。
 しかも、水産庁が信じられない発表をしており、そのままニュースになっていました。(http://www.jfa.maff.go.jp/j/kakou/Q_A/index.html)「セシウムは、カリウム(野菜や果物に多く含まれる)と同じように、魚の口から入り、えらや尿から出て行きます。このため、たとえ放射性セシウムが魚の体内に入っても蓄積しません。」と書いてあります。これは誤解を生む表現だからやめてください、と電話しました。セシウムは人間の体もそうですが、魚の筋肉、つまり食べる部分に取り込まれます。海水魚の濃縮係数はCsで最大100倍くらいという値が推奨されているので、もしCsが5bq/L(=kg)の濃度だとするとそのあたりの魚は、500bq/Kgとなって、暫定基準値なみになってしまいます。生物濃縮に詳しいHPはここにあります。(http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=09-01-04-02)
 今回の原発事故で流れている放射性物質の核種の数と量は半端なもんじゃありません。すぐに垂れ流しを止めないと、水俣病のように長期にわたって苦しむことになってしまう。米国やフランスからの援軍も来たようなので、少し期待値があがりましたが、メディアと専門家のみなさん、もっと監視の目を光らせてくれないと、かなりまずいですよ。