映画雑感「COWSPIRACY: サステイナビリティ(持続可能性)の秘密」

 レオナルド・デカプリオがアカデミー賞の主演男優賞を受賞したそうだ。ちょうど、Netflixで彼がプロデュースした映画、COWSPIRACY(http://www.cowspiracy.com)を見たばかりだったので、スピーチの内容をチェックしてみて驚いた。ああ、彼は相当に本気で世界の環境を考えて行動に移しているのだな、と。特にお気に入り俳優でもないから、なんで彼がCOWSPIRACY?と不思議だった謎が解けた。
 このCOWSPIRACYは副題に「サスティナビリティ」とあるように、主に気候変動の問題と牛を中心にした畜産業の隠された関係にせまるドキュメンタリー映画だった。環境NPOにも容赦ないところがすごい。子どもたち2人に、ぜひ見たほうがいいと推奨されたからには見ようかな、というほど知識がないままに視聴した。いつのまに子どもたちはこんなに硬派になったのか。うん、しごくまっとうな内容だった。確かにこれを見ると、ヴィーガン(厳格に動物性食品を排除する生き方を貫く人々)になりたくなるな。
 私は最近食に関する本「平成の家族と食」(晶文社)を出版したばかりだ。そこでは少ししか「エコ」について触れることはできなかったが、かれこれ10年ほど環境とライフスタイルに関する授業の中で、サスティナブルな食についても一回分語ることにしていた。現在では「サスティナブル社会論」という講義がそれにあたる。この映画で指摘があるとおり、畜産業は気候変動問題にとても大きい影響があることも触れている。ただし、それはもう、30年くらい前から、気候変動を研究している人の多くは知っていたことなので、私自身にとっては新鮮なテーマではない。こうやって映画になるところまで受容の裾野が広がってきたことは、素直にうれしいのだけれども。
 でも、本当は食と環境の関連性に想像が及んだこの地点から、ようやく始まるのだと思う。私自身は、生き方として菜食主義宣言をすることはとりあえずしていない。食べ物は、地球のことというよりも自分(と家族)の経済や身体をよく考えることと切り離せないと思い選択しつづけてきた。サスティナブルな食にもいろんな水準がある。肉を食べるなら牛よりは豚、豚よりは鳥の方が、安価でサスティナブル。食卓にビーフをあまり出さなかったので、子どもには文句を言われていた気もするが、つまりはそういうこと。家で食に関する知識を説明して交渉するのもなにか違うと思っていたし。さりげなく、安価で安全でサスティナブルな食をできる範囲でめざしていたつもり。魚であれば食物連鎖の上位のものより下位のものを食べた方がいい。もう一つ重要なのはフードマイレージで、日本はこれがとても高いという特徴がある。その面からは、実は輸入肉の方がよい面もあるのだ(肉にしてから運んだ方がいい)。ほかは同じ種類の生鮮食品ならできるだけ近くのものを選ぶにこしたことはない。
 私が好んで近隣でとれる片口イワシを食べているのは、まとめてつくるオールサーディンが、おいしいからでもあり、安いからでもあり(ひとやま100円!)、そしてマグロやカジキなど食物連鎖上位の魚より「水銀」の含有量が少ないという点では安全でもある。現時点では放射性物質は含まれていないことも調べている。そして、サスティナブルだから。家から漁船が出ているのが見えると、「あ、今日はイワシあるわ」と魚屋に行くというすごい生活ができている。でも、カツオやサンマは好きだから旬の時期には食べる。マグロはグリーンピースのキャンペーンに衝撃を受けてますます食べなくなってきた(http://www.greenpeace.org/japan/ja/campaign/ocean/seafood/TunaRep/)。今年の授業で紹介したら学生たちも、とても印象に残ったらしい。みんな「考えたこともなかったし、全く知らなかった」と異口同音に驚く。それにしても食にはいろんな価値が絡んでくる。この映画の残念なところは、価値づけの多様性をわかりやすくするために切り捨てたこと。
 これまで日本では、研究業界でもマスメディア業界でも、環境とライフスタイルに関する情報は求められてこなかった。中央政府を発信源として展開された環境とライフスタイルキャンペーンの中で、牛を食べるのをやめよう、と言われるはずもない。自動車のアイドリングストップをしようというけれども、自動車を買うのをやめよう、といわないのと同じで、あらゆる産業界から文句のでないフィルターがかかっている情報しかなかなか世には出回らないのが常だ。
 しかし、2008年にイギリスに数ヶ月滞在していた時に、その違いを思い知った。本屋に行くと、Ethical Living(倫理的な暮らしかた)関連の本が目立つところに山積みになっていたし、新聞やフリーペーパーMETROでは毎日のように、サスティナブルな暮らし方に関する記事がのる。日本に戻ってきたら、よほど求めないとそういう情報に接することができない。
 だから、COWSPIRACYが手軽にNetflixで見られるようになったことは、素晴らしい。なぜか、Netflixは他にもオルタナティブな食に関する映像がとても充実しているような気がする。こういうのを見てしまうと、日本のテレビ番組にますます興ざめする。
 どういう生き方をしたいのか?食べ物一つをとっても実に悩ましい。でも、食が人生の様々な選択の中で、とても大きな領域を占めているということは間違いない。私ももう一度ちゃんと選び直していこう、情報を集めて還元していこう、と背中を押してもらえた。