海から陸へ循環する放射性物質

福島原発の爆発事故の後しばらく、陸から海の方に向かって風が吹いていた。「ああ、よかった」とうっかりしていた自分が情けない。海に流してしまえばとりあえずは安心、なわけないんです。環境を学ぶとき海と陸の物質は常に一体となって循環していることがイロハ。関東圏の水道が汚染されたのは、海からも雨雲に乗って放射性物質が運ばれたことも関係しているはずです。
放射性物質入りの水や大気からの降下物が海に落ちると、しばらくは表面を漂っているわけですが、低気圧が近づくと、ミクロな海塩粒子が核となり、海から蒸発した水蒸気とともに雲が発生してやがて雨を降らせます。東北の近海では北から親潮が流れていて関東沖あたりで黒潮とぶつかるので、海流からみると、放射性物質はあまり北にいかず、むしろ関東の方に近づいてくる感じです。この季節はぐるぐると福島周辺で回っているみたいですね。(http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/db/hakodate/dbindex.html
 すでに、福島原発から出た放射性物質は、チェルノブイリ原発事故でばらまかれた量の10-50%に達しているという試算が出ています。なお封じ込めのめどはたっていません。結局、水蒸気が出続けている間はずっと汚染物質が拡散しつづけているわけで、冷やすために水をかけたら、流れて海に入ってしまう。圧力容器の爆発を免れていてほっとしているうちに、長期間ダラダラ出し続けて相当な量になってしまいました。
 海から運ばれた汚染物質は、気流に乗って山にぶつかりそこで雨や雪をふらせるので、距離が離れていても放射能が高くなっている地域があります。放射線量が高くなっている飯館村などはそんな地形的特徴があるようです。関東圏の水系も例外とはいきませんでした。また雨が降ると濃度が高くなるかもしれません。雨にぬれてアレルギー因子の効力を失う花粉と違って、放射性物質から出る放射線は減りません。
 こういった気象による拡散などについての知見は、気象庁や環境省に蓄積されているはずですし、すぐに専門家に聞けば拡散予想もできたでしょうに。なぜそういう専門家たちは沈黙している(させられてる?)のでしょう。この期に及んで、原子力は経済産業省、とか官庁の領分意識を維持しつづけるのはやめてほしいのです。地震直後になにごともなかったかのように定期メールを送付した国立環境研究所ですが、現時点でも「放射性物質」の降下と拡散については何も表明していません。
 これからは、放射性物質の生物濃縮の問題へと移行するはずです。チェルノブイリは海の近くではなかったので、今回の放射能汚染の問題は誰も経験されていない問題となるでしょう。食べるものも海産物に依存する日本人ですから。ますます、初めて生じる事態を他の物質による環境汚染の知見から「予測」をしてほしい場面が増えます。事後にとどまらず、事前にも踏み込んで、予防的な対策を立てるための分析や解説をしてくれるこの分野の専門家の発言に期待します。学問にたずさわる方々は、所属先に忠誠を誓うのではなく、学術という価値判断にのっとって、ぜひ真実を語ってください。

専門家は放射線のリスクを判断できない

さすがに仕事が手につきません。地震があってからもう10日にもなるのに、夜もろくに寝られないままです。たとえ被災地にいなくてもそんな人もいまは多いでしょう。テレビなどのマスメディアには心底うんざり。例のごとく記者クラブで申し合わせしているのでしょうか。どれも似たり寄ったりで突っ込んだ解説もない。インターネットに断片的に散らばるデータと解説を参考しようにも、ツイッターの洪水はマスメディアの増幅が大半で、かえって有用な情報は埋もれがち。
一次情報を収集するにしても、解釈するためのバックグラウンド情報が不足。例えば、東京電力のHP(http://www.tepco.co.jp/nu/monitoring/index-j.html)、文部省のHP(http://www.mext.go.jp/)と量的には情報が出てきたけれど、解釈するために必要なことがわからない。東京電力の方は、なんで測定場所を替え、しかもいまは1箇所なのか?3号機の黒煙が出るような重要な情報をすぐに出さない。
 メディアは「人体への影響はない」とお決まりのように繰り返すのはやめてほしい。だったらなぜ基準値がつくられたのでしょうか。現代社会というのはあらゆるリスクを個人が判断しつつ生きているわけです。普段から農薬に気をつけ、がんにならないように食事その他にたいして、最新の注意を払う人にとってのリスクの捉え方と、そういうことに普段から全く関心がない人とは、同じ数字でも意味が違うのです。受ける側の年齢や性別などでも全く変わってくるのだから、「安全」な状態かどうかは、自分で判断するしかない部分が相当大きい。判断材料となる情報の提供が大切なのはそういう理由です。
 官僚と多くの専門家が起きるはずがないと判断していた原発の大事故が起き、「想定外」の津波が町をなぎ倒したいま、誰が専門家の判断を信用できるのでしょう。人々がパニックになることを阻止するために、「安心」と繰り返しても、「不安」は増幅されるだけです。それに、低線量被爆の問題には学術的にも明確な結論が出ていません。なおさら専門家なら「よくわからない」と正直にいうべきでしょう。放射性物質を摂取しなくとも可能である地域にいるならいいのですが、これだけの広範囲にわたる農作物が出荷できないとなると、ただでさえ食料が不足している被災地域では困るかもしれない。時と場合によってリスクの捉え方は劇的に変わるはずです。
 記者、政治家、官僚、専門家のみなさん。安全かどうかに言及されるのは結構ですが、その判断に至った過程を説明することを忘れないでほしい。そして、あまり杓子定規なことばかりするのはやめてください。文部省のデータでは、放射線量の高い地域が30km圏の外側にも結構あることが気になりました。地形や風向きで違ってくるのでしょう。一律に避難地域を指定するより、実測値を参考にして臨機応変に対応を頼みます。
 





福島原発のリスクを深刻に案じています:一時避難を希望する方へ

ふだん速報性を重視しないブログを書いているのですが、こういうときは、役に立たないな、やはりtwitterかfacebookかな、と感じましたね。ともあれ、もししばらく被災地を離れたい方がいたら、明日から2週間ほどは確実に一部屋お貸しできます。ブログの詳細プロフィールページ経由のEメールで連絡してください。18日までは強く北西の風が吹きそうですから、逃げるならチャンスは今です。このページをみた方が知り合いに連絡してくださってもかまいません。
大地震と津波、その後原子力発電所があの状態では、もしも私が現地からほど近いところに暮らしていて、しばらく離れることが許される状況ならば、切実に移動をしたいと思うから。ここ名古屋では何事もなかったかのように平穏な暮らしが続いています。東北、関東圏のみなさんには申し訳ないけれど、電力のHz帯が違い、変換設備がなくほとんど東京に送電もできないがゆえに停電もありません。外国の人は、日本を続々と脱出していますし、海外からは「日本から出るなら滞在していいよ」くらいな勢いの連絡がくる状況でも、幸いこの国は細長くて逃げられる場所はまだ結構あるわけです。頼るときにはしっかり人を頼りましょう。
福島の原発から東京都心までは250km近くあるので、風向きによっては時々微量に流れてくるとしても、普通の人なら大丈夫です。でも、子どもやこれから子どもを授かりたいと思う人は、少し心配したほうがいい水準だと思う。アメリカ政府は80km以遠に避難するよう推奨したようです。政府、東京電力、マスメディアは、情報を開示していません。とにかく大丈夫と繰り返しているように聞こえます。知識と断片的な情報を組み合わせて判断するしかない状況です。
参考までに、放射線についての一般知識を過去の講義ノートから転載。

・放射線の種類と性質
 放射線は種類によって、物質をつき抜ける力(透過力)が違います。アルファ線とベータ線は電荷を持った粒子線で、透過力が弱く、紙やアルミニウム板などで止めることができます。ガンマ線は電荷を持たない電磁波のため透過力が非常に強く、薄いアルミニウム板などは透過しますが、鉛やコンクリートにより止めることができます。この他に中性子の流れである中性子線があります。中性子線は電気的に中性で透過力が強いため、鉛やコンクリートだけでは十分止めることができません。水に含まれる水素など軽い原子に衝突させエネルギーを吸収させてから、ホウ酸水などに吸収させることによって止めることができます。
*より詳しくは、下記サイト参照
http://www.rerf.or.jp/radefx/basickno/whatis.html 

 テレビなどでは、ひたすらミリシーベルトとかの話ばかりで単純比較していますけれど、放射線の種類を考えないと被爆を予防できません。レントゲン照射を受けても、放射性物質を体に取り込むわけではないけれど、たとえ少しの放射性物質でもいったん体に取り入れてしまったら、特定の体の部位が継続的に放射線にさらされます。セシウムは半減期が30年近くあるので、一生涯つきあうことになります。ヨウ素は半減期は8日くらいだから、その点はまだましですが。透過性のことをかんがえるなら、中性子線(これを使う爆弾ありますよね)は防護服でも防ぎようがないから、いまだれも原子炉付近に近づけなくなってしまっている。原発に賛成と推進しつづけた人に、しっかり責任をとっていただきたい。


 現在までにわかっているのは、東京にまで放射性物質が少し飛んできているということ。残念ですけれど、原発から300km圏でつくられた農作物は食べたくありませんね。今後は慎重に産地選びをします。海産物も同じです。幸い北西の風に流されて海に落ちていますが、海流を考えるとやはり静岡より西でないと不安です。畜産物は、どのみち餌が輸入だからそれほど心配しなくてもいいかも。


 問題の深刻さは、「いまここ」にもあるのですが、「この先」にもあります。すでに拡散した放射性物質がずっと残ること。日本はすでに汚染国として扱われています。チェルノブイリの時に日本の輸入品の放射線量をチェックしていたのと同じことを、外国ははじめました。農産物を売ることは難しくなるでしょうし、観光も厳しくなる。
 本当に残念です。すべて数十年前から予見されていた事象です。私の原点は反原発の研究グループにあります。「東京に原発を」の広瀬隆はやはり正しかったことが立証されてしまいました。このコラムに単純に事実経過が分析されています。ご参考まで。
http://diamond.jp/articles/-/11514








大学入試のネットカンニングに思う

 ようやく終わりに近づいてきた入試の季節。非常勤の私は幸い入試の試験監督は義務ではありません。この季節だけはお休みが余計にもらえます。常勤の同業者のみなさん、お疲れ様です。ただでさえ神経を使う行事なのに、入試ネット投稿騒ぎですからね。
それにしても、すごい過熱報道でした。連日どの新聞でも一面トップを飾るのですから。偽計業務妨害で逮捕とは、なんと大掛かりなことでしょう。結局京大はじめ、大学は被害届けを出しました。メールの出所情報を入手するためしかたがないと擁護する人は多いけれど、どうにも気分が悪い。大学は被害届など出さずに自分で処理し、ニュースとしては、もっと軽く扱われてほしかった。
社会学やってる人の定型反応でしょうけれど、「大騒ぎになること」に注目してしまいますね。ああ、日本社会(の支配的立場にいる方々)は入試のことを本当に重要視しているんですね、と。そりゃそうです。厳しい入試をくぐり抜けてきた人こそ、支配層にふさわしい、と当事者が信じているのだから。そこが揺らぐとすべてががらがらと崩れる。入試が厳正でないとなると大変なことになる。心配になるわけです。だから大騒ぎになった。
でも、入試ってそんなにすごいものなんでしょうか?大学に入ってからもカンニングや剽窃行為に明け暮れる人がいることは、大学教員なら誰でも知っています。それをあの手この手で封じよう、とするのも仕事の一部。それでも100%は防げません。入試も同じでしょう。ばれなかったカンニングはこれまでにもあったはず。ネットに投稿してしまうなんて、むしろ稚拙なやり方かもしれない。もっと頭の回るやり方をしている人もこれまでいたでしょうね。
だから、ペーパー試験による有名大学への一発合格でいろんなことが決まってしまう社会は危険です。日本の大学は入ってしまえば出るのはらくだし、大企業や公務員などへのアクセスが可能なパスポートになる。新聞などに入社するのも試験中心の一斉採用。メディアと公務員はほかの業界よりは試験好き&得意な人が多い業界なので、そのことが大騒ぎと関係しているのでしょう。
大学受験は入る前に多大な時間的負担を受験生に強いるものですが、昨今はそれに加えて塾と予備校が進化していることから、親や祖父母の投資力の有無が、結果を左右する傾向が高まっています。そういう不平等を放置したまま、厳正なる入試による結果平等だけを主張して、何か意味があるのでしょうか。受験生の意識やモラルの低さと高さとはどう判定するんでしょうね。「国公立に入って母親を安心させたかった」という、涙をさそうコメントも、ある種の道徳観を兼ね備えているわけです。彼には、もう一度しっかりと勉強して、ぜひ希望の大学に合格してほしいものです。これだけ痛い目に合ったのだから、2度とカンニングする学生にはならないはず。痛い目にあわずに、要領よくするすると社会へと出て支配的地位についていく学生の方が、私はよほど怖い存在です。