読後感想「シンルグマザーの貧困」(水無田気流)

 いただいた本について、私信でコメントするのももったいないかな、と折角ですのでブログで書くことにしました。著者の水無田さんは、朝日新聞やNHKなどマスメディアに登場されている貴重な女性の論客,詩人/社会学者です。詩人ならではの言葉選びの感性の鋭さ、また学問領域への目配りの広さに、いつも脱帽させられています。今回の著作もその力業には鬼気せまるほどの迫力を感じさせられました。短い仕事時間の中で、集中してここまで仕上げられている、というあたり、私の仕事時間密度を振り返って反省しました。
 シングルマザーの貧困問題、というものが一般に流布する際にはとかく、「福祉の対象」として世界最悪の貧困率、といった側面のみが全面に出やすいところ、余すところなくシングルマザーの現実を描いていただいた、という点で価値のある一冊となったのではないかと思います。学生たちにも一読をすすめたい本ですね。インタビューのケースは、6人。それぞれをモチーフとして各章を編成する、という構成はとても洗練されていますので、読みやすく、腑に落ちるものです。時間制約もあったと思いますがおそらく、もうすこし違う事例、特に経済的に厳しい事例に出会えていたら中身も違ってきたのではないかとも思いますが。とはいえ、平均的には意外とこんなところだろうと、私も常日頃の情報からは感じているので、さほどの違和感はありません。
 けれど、これを「聞き取り調査」(p.6)と言ってしまわれると違和感が生じます。調査というには数が少なすぎますし、どうやって選んだのか、など手続きの問題は避けて通れません。この著書は、学術研究とジャーナリズムの間をつなぐところで書かれているという点で稀少ですし、そこに存在意義があるのだと思うので、わざわざそう言わなくていいのに。
 また。数字のとらえ方について残念だと感じた箇所は、例えば、私の専門とする生活時間領域で「日本人は有償労働時間も、家事育児の無償労働時間も、諸外国に比べると長いのが特徴」(p.142)とありますが、これは事実とは異なります。有償労働時間は長いのですが無償労働時間は短いので。「近代家族のゆらぎと新しい家族のかたち」(第3章家族の生活時間とワークライフバランス)にもOECD at a glance 2011データを引用しています。有配偶女性が家事育児を熱心にやっているから誤解されがちですけれど、私が比較したデータですと子どものいる女性だけ比較してもイギリス、オランダ女性と差がなかった。それで男性がやらない分トータルは多くない。うーん、水無田さんもそこは誤解しているのか、とちょっとがっくり。私が渾身の力を込めてここ20年やってきたことは全く世間で理解されていなんだということを、再認識させられました。
 結論に述べられている「シングルマザーの貧困は、日本社会の問題の集積点である」という認識には全く同感しております。ただ、働いている時間が長いのに収入が少ない人は男性も含め他にも多いし、さらに安倍自民党政権下で増加しているはずなので、個人的にはこの「非正規」と「正規」の賃金格差問題も対策提案に強調して加えてもらいたかったところです。また、議論などさせていただく機会を楽しみに。