読後感想:「独裁者のためのハンドブック」

 たまにしか歩かない地下鉄の通路に、1つ残っていたR25をめずらしく手に取った。そこで紹介されていた本だった。まさに偶然出会った書籍。私は普段から、いろんな人や情報に「犬も歩けば棒に当たる」的な出会いをしているような気もするが。たまたまコラムニストが「からくり民主主義」の著者だったので、つい思いつきで注文したのだけれど、期待はさほどせずにぱらぱらと読み始めた。
 ところが、久々に自分の世界の見え方に、かなり影響を及ぼした本となったのである。最近、亜紀書房って面白い本を次々出してくる。体裁がめちゃくちゃポップなのに、実は中身ががっちり硬派な本。この「独裁者のためのハンドブック」は、まさにそのタイプ。ニューヨーク大学の教授で政治学者たち。BbM2S2「権力支持基盤理論」を構想してきているようで、学術論文ではどうやら数式やら統計データで分析してきたらしい。どおりで確固として揺らがない、一本筋の通った話になっているわけだ。事例に落として読みやすく書いてくれている本となっている。
 一言でいえば社会の権力構造を、独裁から民主社会まで一つのシンプルな理論で説明してしまおう、という恐るべき話。あらゆるリーダーは、近い方から「盟友集団」「実質的な有権者集団」「名目的な有権者集団」の3つの集団に目を向けているのだ、という。この理論を持ってすれば、「独裁」に立ち向かうヒントが見つけられるというふれこみなのだけれど、そこはどうも物足りないオチ。まあ、「そこはこの理論使ってみんなで考えて」、ってことか。
 私がぐさっときたのは、独裁者は初等教育には金をかけるが、高等教育は潜在的な脅威となるから、教育の機会を制限するというくだりだ。日本社会は初等教育はよいが高等教育はぱっとしないと言われることがある。実際、大学にいるのに、教員も学生もろくにものを考える暇が与えられない。これはつまり、日本のリーダーたちが、近い「盟友集団」のみを見て政治をする独裁系に近いことを示す証左になっているかもしれない。もっとも著者たちは、ノーテンキに日本社会をとても民主的な国、と見なしているので、そんな記述はみあたらない。それでも、移民に対する制約を課しつづけ、市民権を与えない社会の例としては日本があがっていた。この種の政策は「少数が多数を支配する体制を維持するには都合がいい」ということである。
 彼らの理論を使っていまの日本政治をみると、貧しいものから広く集めて金持ちのお友達に渡すことが政権の維持を死守するための方策となっている構図が理解しやすい。金の不足は、近い「盟友集団」に対する縁の切れ目となってしまうからだ。株価あがり、円が安くなると「盟友(お友達)集団」は儲かるだろう。多くの人にとってよい方策がなにかは、あまり権力者は考えない、というところがポイントである。独裁制であればあるほど、みのりのない戦争をする、とも書いてある。
 まあ、それでも世界に目を向けるなら、「これくらいならまだいいほうか」と思えてしまうトンデモな権力者の事例が次々出てくる。著者たちが思っているよりも日本社会がトンデモに近づいていないことを祈りつつ。。。