急降下する幸福度:健康寿命を支える人生における選択の不自由さ

2012年の発表以来7回目となる国連のWorld Happiness Reportにとりあげられた幸福度指数。NHKはじめ各所で広く取り上げられている。これまで、こんなに報道されていただろうか。日本人のランキング好きをくすぐるのかな。さすがに景気がいいとかいわれてもピンとこなくなっているから、新たな指標探しに注目が集まるのだろう。幸福度指標はかねてより講義でも紹介しているので、光があたるのはうれしい。サスティナブル社会への移行と数値目標は切り離せないからである。この指標は当時ノルウェーの女性首相であったブルントラントの率いた委員会で、「持続可能な開発」の概念ともつながりの深い測定値である。

この指標を構成しているのは、1)一人あたりGDP2)健康寿命、3)親戚や友人からの支援、4)人生における選択の自由、5)寛大さ(寄付の過多)、6)政府の汚職や腐敗、7)ディストピア指標:ポジティブな感情(笑い、楽しい)とネガティブな感情(心配、悲しい、怒り)で測る残余的指標。日本はトータルで世界156カ国中58位、先進国ではOECD36カ国中32番目となっていて、GDPなどから比べるとよい数字ではない。

ところで報道ではランキングが下がった点が強調されているが、私は絶対値の変化のほうが気になった。2005-2008年と2016-2018年を比較して64カ国で絶対値が増加している中で、日本は低下した42カ国の側にいる。変動幅ランキングでいうと、なんと132カ国中の95位となり急降下中といえる。この10年の冴えない雰囲気が指標に凝縮されている。もっとも幸福度が急降下している国には、現状幸福度は上位にいても未来が怪しいと思わせる国が入っていて、フランス、スペイン、デンマーク、イタリア、米国なども日本より下がり方が大きい。

GDPという指標で日本が24位だとして、それを下回った指標は3)親戚や友人からの支援50位、4)人生における選択の自由64位、5)寛大さ(寄付の過多)92位、6)政府の汚職や腐敗39位、7)のうちポジティブな感情(笑い、楽しい)73位。じつは、ネガティブな感情(心配、悲しい、怒り)はそんなに悪くない14位。淡々と過ごしていて楽しい時間が少ないという感じは想像しやすい。4)人生における選択の自由は、日本と並んでフランス、スペイン、イタリア、米国でも足を引っ張っている項目である。どうやらこのあたりの指標に未来世代の不満が見え隠れする。


選択の自由がある社会とは、自分の性別やうまれ育った家族や地域など、出自の属性にかかわらず何か自分がやりたいことができる(平たく言えばなりたい職につける)という意味である。まさに近代社会がめざしていたはずの価値を、結局先進国の多くが実現できなくなっていたとしたら、世界は産業革命以来の変化を経ていまや閉塞したのだ。若い世代が暴発したり急速なカルチャーの変化をもたらしているフランスや米国のような国と、そんなエネルギーすら失って消えゆく(少子化する)社会が日本、スペイン、イタリアだ。また、この3カ国は健康寿命ランクが一桁と非常に高い。美味しくヘルシーな地中海式の食事と和食を支えるのは妻あるいは母となった女性たちだ。一昔前に家族への食事づくりを喜びにしていた女性たちは、いなくなってきたのだろう。彼女らの人生における選択の自由と美味しい食事や健康寿命は、残念ながらいまや相反する関係にあるといえそうだ。