学期末の業務多忙と合わせ、季節労働者として母親業をこなす「ラッシュアワー」実感中にぴったりのタイミングで頂いた本。中谷氏の著作はいつも入念な調査にもとづいた密度の濃い内容でありながら、さらりと読める。上質な時間を味わわせてもらった。
ワーク・ライフ・バランスという言葉はだいぶ広く知られるようになってきたけれども、実際に仕事を人生のなかにどう位置づけるのかとなると、具体的なイメージがつかめないことが多い。だからこうやって現地に入り込んで一人一人の生活をすくい取ってもらえると、とてもありがたいと感じる。私のように、どちらかといえば数値や文献などのデータなど無機質な資料をもとに研究をしている人間からすると、50人ものオランダ人へのインタビューをもとに書かれた本書は多くの示唆を与えてくれる。
例えば「週4日のフルタイム勤務」を夫妻2人がとることで、子どもは週3日の保育に押さえる、というやり方が持つ意味の重要性に気づかされた。「子どもが週4日保育園にいくのは多すぎる」というオランダ的考え方からすると、この1日がとても重要だということになる。日本人的に週5日預けることをあまり気にしていなかったので、オランダ人の家庭的保育への熱意が理解できた。幼稚園教諭&保育士養成に関わっている身からすると、集団保育はそこまで減らさなくても大丈夫なのに、とつい思ってしまう。頭の中では理解しても、ここまで集団保育が嫌われるとなると、その理由も考えてみたくなる。
「人生には仕事以外にも大切なものがある」とか「ひとつのことだけでは飽き足らない」と語るオランダ人がとても多いこともよくわかった。でも、そこにはやはりジェンダーがある。男性はフルタイムで女性はパートタイムが多いのが現実であり、昇進に対するパートのハンディキャップは解消されていない。以前に学会で会ったオランダ人女性研究者が語っていたいらだちや歯がゆさと重なる。
オランダ社会で「ケアの営みは価値のある仕事」だという観念がここまで根強いものだとあらためて気づかされた。私も常々そう思っているし、日本社会ではもう少しケアに価値を人々に感じてもらいたい。けれどもこの著作を読んで、オランダ人女性に向けられる「そんなに長時間子どもを保育所に預けたらかわいそう」という目線もやっかいだろうな、と同情もする。集団保育をそこまで厭うことなくフルタイム就労に抵抗のないフランスのような社会とオランダは対比的である。
欧米も一枚岩では決してないなか、日本はどこへ向かおうとしているのだろう。仕事以外に大切なものがある、と言う人は多くても実際に大切にしている、と言い切れる人は少ないし、大切にもできないのが実情ではないか。少なくとも仕事に縛られすぎない人生が選べるような制度を整えなければ、大人も子どもも幸福感が上がらないことは確実だと思う。