それにしても、ジャンベという打楽器には独特の魅力がある。かつて人がうらやむ高学歴を持つ優秀な同僚が職業をあっさりと捨て、アフリカンドラムの世界に入っていったことがある。そんな体験とシンクロしながら見てしまった。映画の設定では、高齢の経済学教授がクラッシックのピアノからジャンベを通じてアフロビートの世界へとはまっていく。彼は心から楽しそうにジャンベをたたくうちに、心そのものも柔らかくなっていく。私は音楽に魂を揺さぶられるという経験を信じている。この映画の生命線は、音楽をきっかけにした急激な人間の変化というストーリーがとても現実的に描かれているところにある。
じつは、この映画は大学業界に生きる人々にとっては身につまされる場面をたくさん含んでいる。経済学へのアイロニー(社会学でないのがせめてもの幸い!)研究と現実の世界との距離感など、じつは容赦のない批判が浴びせられている。自分がどちらの側に立っているのかによって、楽しめる人とそうでない人がいるだろう。社会の中枢を担うエスタブリッシュの人々には手厳しい映画かもしれない。
映画は自分の立ち位置をさりげなく思い出させてくれる。私が感情移入できる作品を振り返ると、結局「クラッシックよりはアフロビート」なものを選んでいることに気づく。そろそろ、中途半端にでなく素の立ち位置をはっきりさせた人生を歩まなくては。