低炭素社会シナリオのジェンダー観

 2050年に日本は70%の二酸化炭素を削減することができる、という。私もそうしたいと願っているし常々どうしたらいいのか考えてもいる。尊敬する西岡秀三氏が編集し、気鋭の学者たちがまとめた日本社会の将来像に期待を持って読んだ。
 残念ながらとても落胆している。こんなに劇的に変化する未来社会のシナリオを描きながら、そのジェンダー不平等ぶりは永遠につづくかのように不変だったからである。
 地球温暖化がすすんで世界が壊滅的に被害を受けるのと、被害は受けないがジェンダー不平等な社会が永続するのとどちらかを選ばなくてはいけない、ともし言われたら、私は迷うのかもしれない。2050年になっても女性達が家事の大半を担った上で、仕事も増やして男性より長時間(総)労働に従事しつづけるような70%炭素削減社会には魅力を感じない。次世代の社会シナリオは人が性別や年齢、出自により差別されないという至極あたりまえの民主社会の実現とともに描かれてほしかった。
 環境学者たちの生活に対する知識や想像力が、あまり豊かでなかったのが残念だ。そして私がそこに何も提言できなかったことも少し情けない。ライフスタイルの変革を読み込むならば、いま始まっているそのほかの社会生活変化における萌芽を取り込んでもらいたかった。思想に鋭敏でないシナリオ研究は、どれだけ緻密にデータを積み上げて実証されたものであっても、未来社会へ向けて人々の心を動かすことはできないだろう。